仲良し運命交換会





時を刻む備え付けの豪華な時計の針は、午後の4時半を過ぎたところである。
「あー…何か疲れた…。てか、腹減った…」
三つ巴のあーだこーだ論議が終わると、昼を食べずに済ませた腹が、こんな中途半端な時間に空いてきて、ぐう、と音を立てる。
ルークの腹から鳴ったらしい音は、実は今日のところは同じ食生活を送っているの腹からもしていた。
やっぱり、あんな微妙な時間に朝食を無理矢理摂ったのが間違いだったのだろう。ルークに多少なりとも申し訳なさを感じたが、
元はと言えば、ちゃんと朝に起きなかった彼も悪い。
「…そーいやガイ。お前地味ゴリラ連れて出てった後、何してたんだよ」
空腹の腹を誤魔化そうとでもいうのか、ぐってりと、頬杖を崩して机にだれ込んでいるルークが話題転換をする。
脱力気味にやる気なく椅子に体を預けていたも、僅かな疑問心から顔をガイの方へと向けた。
二人でこの部屋を去る時、暇な空間に一人で放置される事にむくれたルークに、「戻ってくるから」とガイは言葉を残していた。
しかしルークのこの様子だと、彼は自分をメイドに引き渡した後、どこか別の場所に向かったという事だろうか。
問われてガイは、失念していた何かを思い出したように、目を丸くした。
「ああ、そうだそうだ。ちっとばかし、城下に買い物に出掛けてたんだよ」
言いながら、脇から白い紙袋を取り出して、机の上に置く。
「…?…何だよコレ?」
袋を手にしたまま、にやにやと嬉しそうに笑いを浮かべるガイを、ルークと共に訝しい思いを込めて窺った。



「デスティニーまんじゅう。」

「…ぁあ?」
「…んな、何なんですかその物々しい名前のまんじゅうは」

余りにも不可解なネーミングに、黙って聞いていようと思ったも耐え切れずツッコミを入れてしまった。
デスティテニー…運命……………の、まんじゅう?…西洋風一色のこの世界にも、饅頭があるのだろうか?
召喚術のお陰で言葉が通じていると言うのなら、本当は彼らは何と言っているのだろう。
思わず言語変換機能の性能を疑ってしまう。
恥ずかしい名前を口にしている自覚がないのか、全く気にした様子の無いガイが、笑顔で続ける。
「今、巷で話題なんだよ。ほらルーク、前にメイドの子と話してたろ?何が入っているのかはお楽しみ。
 けど、どれもウマイってやつさ。お前、食いたがってたじゃないか」
「…んあ?………あー!アレか!エビチキンなんたら!」
(…はい…?)
ルークまでもが不審な名前を口にし出した事に、やはり今一度、召喚術が正常稼動しているのかが疑わしくなってきた。
そんなは放っておいて、ガイと同じく、記憶の中に埋もれていた出来事を探し当てたらしいルークは顔を明るくする。
「"エビチキンマヨ"、な。お前それしか覚えてないのか…」
会話の中で、それにしか興味を強くそそられなかったのだろう。一つ覚えに思い出した様子に、ガイは苦笑を浮かべた。
それにしたって、忘れていたのが「マヨ」の二文字とは。「なんたら」という言葉の方が長い。壊滅的な集中力の無さが窺える。
微笑みつつ、ガイは「この袋に入ってるかどうかは分からないんだからな」と、一応釘はさしておく。
しかしが見る限り、6個程は入っていそうな大きさの紙袋である。全部で何種類あるのか知れないが、
入っていないという確立は低いのでは、と考えた。
さておき、腹が空いたところへの差し入れで上機嫌になったルークに、ガイは悪戯っぽい笑みを浮かべて茶化しにかかる。
「そーいや聞くところによると、今日は遅い朝メシ完食したそうじゃないか。お陰で昼メシ、食いっぱぐれたんだって?」
黙ってくれていればいいのに余計な事を、と、は咄嗟にニヤニヤしているガイの頭をはたきたくなった。
恐らくメイドから、いつにないルーク談を伝え聞いたのだろう。
こういった皮肉な態度の応酬も、友人としての言葉のスキンシップなのだろうか。
大いに結構だが、それに自分が巻き込まれる可能性のある話題は、控えてもらいたい。
特にこの年頃(精神年齢の方)の少年は、いじられると過剰なほど敏感に反応する。
案の定、ルークはたちまちその言葉に眉をつり上げた。
「し、しゃーねーだろ!コイツに無理矢理食わされたんだからよ!お陰で変な時間に腹減ってくるし…最悪だっつーの!」
「べっ、別に無理にとは…!それに食べたのは、あん…たじゃなくてご主人様の勝手じゃないですか!」
予想通りの、謂れの無い恨みである。自分は用意された食べ物が無駄になるのを見過ごせなかっただけだ。
思わず気丈にも言い返してしまうが、途中で恐くなって敬語になる。誓約の痛みの権限を握られているだけに、やりにくい。
「まーまー!ホラ、お陰で念願のエビチキンマヨが美味しく食えるだろ!コレくらいの量なら夕飯に差し支えなくて、
 丁度いいじゃないか!も、な。お詫びだと思ってさ!」
飛び散った火の粉が、思わぬ所に引火してしまった、と、慌てた様子でガイが消火にのり出す。
もはや恒例となりそうな勢いで口論に雪崩込みそうになる自分とルークの間に割りこんで、抱えた饅頭の袋を押し付けてきた。
それに対し、ちっ、と、舌打ちはしつつも、ルークがいつに無く大人しく引き下がったのは、デスティニーまんじゅう効果か。
の方も、宥めてくれるのは有難いんだけどもなあ、と、考えながら、椅子に座りなおす。
だって、元はガイの煽りが原因なんじゃないか。複雑だ。
と、考えつつも。
(ダメだ……何で私…成人して3つも年下の子と本気で言い合ってんだろ…)
年齢的な差で言えば、高校生が小学生相手に挑発され、ムキになっているようなものだ。
かつ、3歳差というのは肉体的なものであって、7年前に記憶を失ったと言うなら、20歳社会人VS7才児の最悪の関係図。
とてつもなく情けなくなって、自己嫌悪した後に、自己反省に至る。大人気ない自分をなんとかしなければ。
なんというか、何故だか知れないがルーク相手だと調子が狂ってしまうのである。

両者落ち着いたところを見計らい、ガイはまんじゅうの詰まった袋の開け口に手をかけた。


ガイによって購入されたその時から、色々な紆余曲折があったため、饅頭は部屋と同じ暖かさになってしまっていた。
しかし、三人それぞれ手に取ったそれからは、やはり饅頭皮のほのかな甘い香りがして食欲をそそってくれる。
何が入っているのかは、その趣旨よろしく分からないが、は白くて丸くて…肉まんみたいだなあ、と思い起こした。
コンビニなんかの店先で、買った事はないが、近頃はクリームまんやら肉じゃがまんやら…変り種の豊富なそれをよく見掛けた
事がある。余程味が想像つかないものを除いて、一度食べてみたいと思っていたのだ。こんな所で実現するなんて。
大人気ない自分を数分前に反省したにも関わらず、ちょっと胸が高鳴ってしまう。
はてさて、何が当たるのやら。例え何だったとしても、食べ物なら何でも大歓迎であるが。
「はい、じゃあ、せーの……いただきます。」
頼まれてもいないのにガイが音頭を取り、それに自分もルークも素直に従って、愛らしく芳しい丸みへと三人一緒にかぶりつく。


「ん」
「お」

「……」


ルークとガイ、それぞれがリアクションを取る中。
は無言で、口内に広がった味に、嫌な予感を覚えていた。
いや、実に美味しい。文句なしに最高の味である。
行列の出来る店の○○、話題の美味しさ△△、などの広告や宣伝旗を見掛けても、指を加えて見ている事しか
出来なかった一昨日まで。それが今は、町で今まさに流行だという食べ物を、他人の金で頂けているのである。
文句など、一寸たりともないのだが。


――――クリーミーな味わいに、女性や子供にすこぶる受けが良さそうな、マイルドな口当たり。
少し齧った程度なのに、たっぷりと詰められた具が、口の中で甘みのある饅頭皮と混ざり合う。
その中には、プリッとした歯ごたえの魚介類と、下味のしっかりついた肉。
二つのメイン食材を見事に繋ぎ合わせる、マヨネーズベースのソース。

思わず続けて二口目を欲さずにはいられない、さすが巷で話題の、魅惑のまんじゅう。


――――しかしてそれが、デスティニー(運命)だとでも言うのか。
至高の美味しさと、後ろめたさと、憤りとを、口の中でもっそりと味わいながらも、項垂れた。

「何が入ってたんだ?」
口に入れた瞬間、微妙な顔をしたガイだったが、同じく一口目を咀嚼しながら楽しそうに自分とルークに問いかけて来る。
「うげー…俺のコレ、多分フカヒレ……」
高級食材フカヒレ。そんなものまで饅頭の具として扱われているのか。
一般的には、大当たりなのだろうそれだが、どうやら魚系が全般的に嫌いらしいルークは、顔を青くして舌を出した。
ルークの呻きを聞いて、何故かお前もか、というような表情でガイが笑う。
「はは、そうか。俺のは、マーボードウフらしい。うーん……ちょっと苦手だな…。いやあ、お互い残念なこった。
 ……で、のは?」

ぎくう、と、振られて肩を揺らす。スルーを願っていたのだが、やはり駄目か。
どうしよう、言ってもいいものなのか。
でももう、こればっかりは運によるものなので、どうにもならないし。
「……えーと、その…」
非常に言い辛そうな態度をとってしまったために、どんな変り種が当たったのかと受け取ったらしい、二人がこちらを注視してくる。
興味津々なまでのそれから逃れる事は出来ないのだろう、と涙ながらには悟った。


「…………………………エビチキンなんたら……っぽい…です」

ぽい、というか。
齧った所から覗く、ぎっしりと詰まったエビとチキンがマヨネーズソースと絡まっている様は、紛う事なきルークが欲しがっていた
"エビチキンマヨ"に間違い無かった。「なんたら」は、もう、最後の言い逃れである。
全く、どんなに当たりの悪い人生なんだよおい。確率の神様め。
ここに来ても、やはり自分によりにもよってな貧乏クジしか引かせない神を再度呪う。いや、饅頭は美味しいけれど。
「えー!?何だよソレ!何で地味ゴリラが食うんだよ!?」
不満一杯なルークが、怒りさえ含んだ不平の声を上げる。某痛みさえお見舞いしてきそうな勢いである。
ああほら、やっぱり。謂れの無い恨みがこちらに飛んでくるのだ。
自分としては、本当に何でもよかったのに、よりにもよってコレを当ててくるか。
「ルーク、やめろよ。子供みたいだぞ…」
これはそういう食べ物なんだから、と、ガイが苦笑しながら慰めるが、ルークは眉間に皺を寄せたまま、全く納得しそうにない
ご様子である。まあ、それは無理もないかもしれない。
こっそりとガイが買ってくる以外、めったに口にできる事のないだろう屋敷の外の食べ物。
品質や味は、勿論ファブレ公爵家おかかえのシェフ達の作る料理なんかとは比べようもないが、食べ慣れたそれとは違う、
自分の知らない味の、刺激的な食べ物なのである。
けれどそれも、嫌いな食材が入っていれば話は別、というもので。
自分に当たった物には嫌いな食材が入っていたのにも関わらず、それに加えて、目の前で自分が切望していた好物が
食われてしまおうとしているのである。精神年齢7才に、大人特有の「諦めを知れ」が通じるはずがない。
(ああ……もう…しょうがないなこの人は…)
としても、このままルークの前でエビチキンマヨを腹に入れるのは、何か気まずい。
かつ、自分は別にどの饅頭でもいい。そうなると、この手に持つものをルークに譲ってやればいいのだが。
一口齧ってしまっている物を、プライドの高いルークの事、「あげようか」と申し出ても「いらない」と言うだろうし。
どうしたもんか、と思いつつも、対ルーク解決法というのは、結構単純だったりする。
要はこちらのプライドを、少し捨ててやればいいだけの話だ。
後は、察しのいいガイが助け舟を出してくれるのならば、尚のこと完璧である。
ごほん、と喉の調子を整える。

「えーっと……私…フカヒレが食べたかった……んだけど、な…」
「…あ?」

何で朝からこう、慣れないミッションをこなさなくてはならないのか。
棒読みになってしまいやしないか、上手くいくのかどうなのか不安で小さくなってしまった呟きを、それでも耳ざとくルークは拾う。

「フカヒレって高級だし…一度でいいから食べてみたかったなー……なんて」
「な、何だよ…」

何だか自分が馬鹿馬鹿しくて恥ずかしくて、呟きつつもルークの方を見れずに、視線が泳ぐ。
そんなこちらの様子を不審に思ったのだろうルークが身を引くが、明らかに動揺している。
そこでやはり、の策に気付いてくれたらしいガイが、口を挟んでくれた。
「ルーク。いいじゃないか、取り替えてやれよ。がこんなに食べたがってるんだしさ」
言いながら、チラリと一瞬こちらに視線を寄越したガイが、ルークには悟られないように小さくウィンクをしてくる。
うわあ、何だそのキザな動作は、と、しっかり似合ってしまうガイに軽く慄きつつも、ルークの返事を大人しく待つ。
プライドからか、渋っているかのような動作を見せた後、やはりルークは頷いた。
「…ったく…しょーがねー奴だな…。べ、別に、いいけどよっ」
おら、と、齧りかけのフカヒレまんを突き出してくる手に、同じく齧りかけのエビチキンマヨまんをかわりに乗せてやる。
あっさりと策にのってきた彼を、ある種微笑ましく思う。ぜったい此方のエビチキンマヨ饅頭を食べたかったクセに。
にとっては今まで面と向かった事もない究極に苦手とする系統の人間ではあるが、
こういう所だけは何というか、扱い易いとでも言おうか、ただの世間知らずな貴族のおぼっちゃまだ。
(……ちょっと、面白いかも…)
そんな面倒くさい人間を前に、何を微笑ましく思っているのか。やはり彼には調子が狂わされる。

無事にフカヒレまんを手にし、本人は隠そうとしていても機嫌が良くなったのが目に見えて判るルークにも安心して、
食事を再開させましょうか、と、ガイを振り返った所。
(…………え……?)
にっこにっこと、普段の3割り増しの笑顔が、そこにあった。
いつもなら、眩し過ぎるそれにダメージを受けている所だが、あんまりにも胡散臭いので赤面するより先に疑問符が浮かぶ。
「なぁなぁ、」
「……はい?」
何で彼は、色んな感情や気持ちを、こうも笑顔一つで語れるのだろう。今の場合は何となくいい事じゃない気がする。

「俺、フカヒレが食いたいなあ」

ピシ、と、は固まった。
先程口裏を合わせてくれた意味無し、と、いうか、自分のためだったんかい。
「おい、ガイ、どーいう事だよ……お前今さっき、地味ゴリラが食いたがってるから譲れ、って言ってなかったか?」
呆れて物も言えずに固まっているの代わりに、ルークが不審そうに問うが。
「だってなー、トウフ入ってるし。お前だって嫌いな物がある気持ち、解るだろ?それに俺だって、魚好きだし」
先程は、子供みたいだとルークを嗜めていてくれたくせに、この体たらく。
(こっちも……相当面白い人だ…)
うだうだ述べるガイと、まあそうだけどよ、と頷いているルークを見て、は感じる頭痛に頭を抑える。
この二人は、何でこんなに立派なナリして、こんなにも下らない事に真剣になるのだろう。
自分には、到底理解できない。
しかし、さしたる断りの理由もなし、結局ガイの手からマーボーまんを受け取った。
「よし、それじゃあ改めて。…いただきます。」
またしても音頭を取ったガイの声と共に、今度こそ落ち着いて三人、饅頭にかぶりつく。
おお、マーボーまんも結構イケる、と、美味しそうに頬張っている二人を眺めつつ、も咀嚼した。

思えば、こんなに賑やかな食事は、両親が居なくなって以来、初めてなのだった。






「…何ていうか…デスティニー(運命)の意味、無いですよね……」
結局、二個目のまんじゅうを食べようの会でも、齧ってみてからあれやこれやと交換し、
それぞれが運命に完璧逆らったまま、完食を迎える。
「やー、やっぱり好みの問題だよな。…まさか、スイートポテトレモン風味、なんて変り種が出てくるとは」
「キノコづくしスペシャルとか…地獄の食いモンかってぇの……」
一口目の味と、ルークの方はさらにギッチリと詰まった各種大嫌いなキノコのあんを見てしまった事を思い出しているのか、
グロッキーになる二人をは冷めた目で見つめる。
「好き嫌い…多くないですか?…子供じゃあるまいし」
例え子供でも、満足に栄養を取ることが出来なかったその昔。
食べ物に対して好きだの嫌いだの、そんな失礼な感情を抱いた事もない。まして、こんなに美味しく作られている筈の物を。
「う…面目ない…。ホント、他なら全く平気なんだが…どうしてもトウフとレモンだけは…」
あと女性…と呟きつつ、本当に申し訳なさそうにガイは頭を項垂れる。頭を下げるべきは、食物の方に、なのだが。
まあ、普通の人間なら、苦手なものの1つや2つ、何かはあるだろう。ガイの場合はそれが、食物2つと女性というだけの話だ。
しかし、もう一方のコイツは、きっと違う。
「まっじぃんだから仕方ねーだろ!エラそうに言うんじゃねえよッ!自分だって男嫌いのクセに!!」
正当な理由なんかないクセに、この場には全く関係なかったろう所からわざわざ引っ張って来てまで、人の揚げ足を取る。
全く、生意気この上ないガキである。
しかし、そんな挑発を受け流す事が出来ない自分も自分なのだが。
「だっ…から、違うって言ってるでしょう!?触られたって近付かれたって、平気だったでしょうが!適当な事言わないでよ!」
自己嫌悪。自分には学習能力がないのか。大人気なさを反省したのではなかったのか。
どうしてこう、ルークには言い返してしまうのだろう。あまりの馬鹿さ加減を、ガキっぽさを、放っておけない、とかか?
それにしたって、もうちょっとルークの心を逆撫でしないような対応を心がけねば。

「へぇー、ほぉー、ふぅーん?」

ルークの眉は、怒りにこれ以上ない位に吊り上がったのだが、目だけは細めて、超低温の眼差しを向けてくる。
言い返す言葉が、無くなってしまったのだろうか。
三言、唸った後は、腕組みをしたまま特に何も言い返してはこず、じとーっとした目で睨みつけてくるだけである。
どことなく、考えてもいるような素振りを見せていた彼だが、ある時息を吐いたかと思うと、ガタン、と椅子から立ち上がった。
(…へ、な…何…!?)
腕を組んだまま、怒りのオーラを纏うルークが、テーブルを迂回して自分のすぐ横で立ち止まる。
異様な位の威圧感湛えた端整な顔で見下ろされ、物怖じする。美人が怒ると恐いというのは本当だ。

「お、おい、ルーク…」
口で勝てないなら、暴力をふるうとでも言うのか。
あまりの穏やかでないルークの、ある種意を決したような雰囲気を見て、さすがに心配になったガイが呻く。
殴られる?蹴られる?
望むところだ。こちらには、どうやら並ならぬ防御力と、何故だか解らないが、怪力だってある。
中身はたかが子供のルークなんかに、絶対負けない。



「な…何」



紡ぎだそうとした言葉は、押し付けられた圧迫感に飲み込まれる。



一瞬のうちの出来事だった。
がばり、ぎゅう、という擬音語が相応しい勢いだった。
ただ、取り敢えず、痛くはなかった。

目の前で起こった、あまりの予想外の出来事に、ガイは呆気に取られたまま暫らく固まっていたが、
ルークの意図をはかり取り、思わず苦笑する。





一方その頃、穏やかじゃないのはの方である。
何が起こったのか解らない。解らないけれどもとにかく何とか理解して、頭の奥から白いような黒いようなものが、ぶわ、と
広がったのは以前と同じだ。
しかしそこからは、何とか意地で、意識を失うという事だけは避けられた。
あとはもう激しい、あまりにも激しい自分との闘いである。ルークという"男"の腕の中、爆発して暴れ出しそうになる本能を
何とか自らの意思の力で抑え付けていた。

(恥ずかしい恐い怖いコワイこわい突き飛ばしたいけど怪我させたらどうしよう
でもそれ以前に誓約の痛みがコワイしやっぱり恥ずかしいし心臓痛いしアレ
何かドキドキする?いや有り得ないしホント勘弁してよコレ何でルークは気色悪いとか
言ってなかったっけでも何か平気っぽいしいいのかなコレいや全然良くないよ
もういい加減マジ恐い本当に怖いどうしようもなくコワイあああもう恥ずかしいいい―――――)





が悲鳴も上げないまま、特に動作も起こさないまま、数十秒が過ぎた。
流石に、もって15秒くらいで頓狂なリアクションを期待していたルークとガイだが、いまだ何の反応も示さないを
いい加減不審に思い始める。

「おーい、?どうなんだ?平気なのか?」
「……………………………………」

ガイが呼びかけてみるも、ルークに無理矢理抱きつかれた格好のまま、は身じろぎ一つしない。
もう一度呼びかけてみても、結果は同じだった。
やがて、の参った宣言を諦めたらしいルークが、ちぇ、面白くない、と、身を離そうとした時に、やっと気付く。


「…――――ガイ、だめだわ、コイツ」
「…え?」


「…気ィ失ってる」

緩められた腕から、でろり、と零れ落ちるを見て、ガイもありゃま、と目を丸くした。

「こいつは本物だなぁ…」


男性(密着)恐怖症。


今日一つ、は知らなかった自分を知った。


ロシアンルーレットまんじゅう。でも「ロシア」が無いからこうなった。TODとは関係なし。
エビチキンマヨ→ルークが好きそうな物を全部組み合わせてみた。どことなく私も食べたい

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