「…………………」 「…………………」 真昼の空には変わらず、鳥が歌っている。 向こうの世界では、スズメとかにあたるんだろうなぁ、と、おそらくこの世界ではポピュラーであろう鳥が鳴く方へと目を向けた。 「…何だよ」 「…べ、別に…」 窓を見ようとしただけなのだが、必然的にベッドの方を経由してしまい、赤い髪の少年の、 チラリと寄越してきた視線と偶然にも目が合う。 ベッドの上に半分座り、半分寝転がったような状態でダラけていたルークは、途端に嫌なモノを見た、とでも言うように顔を顰めた。 彼とは、徐々に打ち解けていっているとは思いつつ(いや、そう信じたい)も、それが1ミリ単位づつのような気がする。 相変わらずルームメイトには嫌われたまま、という現状に、は心の中で溜息をつく。 どうにかならないものかと思うが、更にどうにかしたいのは、やっぱり、呆けている他に、する事がないという現状である。 それにしても。 (うう…胃が……重い…) 先程済ませた遅い朝食では、いまだかつて無い程の量を食べたような気がする。…というか、食べた。 慢性的に不足していた肉や卵も、実に久しぶりに、一回の食事で充分すぎる量を摂取してしまった。 本人もビックリしているが、一番ビックリしているのは胃だろう。 何だ…何が起こった…!?これは吸収していいのか!?それともこれは幻なのか!? 食道から降ってきた良質な蛋白質やらビタミンやらに、手を出しあぐねる胃、という下らないシーンが浮かんだ頭を、振った。 とにかく、結局食事を頂いてしまったのである。しかもタダで。 なのに、食べてからこっち、こうして座っている事しか出来ないというのは、何というか許せないし、許されない。 取り込んだエネルギー分、しっかり発散させないと。 だが、しかし。 「…………………」 「…………………」 さっきから、こうなのである。 気の許せない相手がいる部屋の中、ピリピリとした妙な緊張感が漂い、動くに動けないし、声も掛けられない。 それは向こうも同じなようで、そして二人とも黙ってしまって、じっとしている、という状態が続くのである。 自分がもっと明るくて、前向きで、話し上手だったなら打破できるであろうこの空気を、呪わしく思う。 実際は、目に見えてこちらを嫌っているルークに対して話しかける勇気も無ければ、話しかけて返ってくるかもしれない 冷たい言葉が恐いし、何を話しかけていいのかも…必死で探しているが、当たり障りのないものが思いつかない。 気まずい。その一言につきる。 だがいい加減、そんな空間に30分もいればお互い限界なわけで。 「……うぜぇ」 「…はい?」 ポツリと投じられた、この無言回廊からの脱出の糸口になるかもしれないルークの呟きに、は喰いついた。 この際それが、口汚い言葉であったって、何でもいい。 「…あーもーッ!!落ち着かねぇっ!!」 突然そう叫ぶと、ルークは預けていた背をクッションから離し、片手で頭をがしがしと掻く。 もったいないな、と、は乱暴に扱われる見事に根元まで赤い髪を見ていて思う。 自分よりもずっと長いし、綺麗なのに。 ルークはそんな事を考えるをお構いなしに、きっ、と睨みつけてくる。 「おい、地味ゴリラ!」 …呼んできたよ。そのあだ名はやめてと言ってるのに。 「お前がいるせいで、落ち着かねーんだよ!どっか行けよ!」 そんな事を言われても。 こっちだって緊張で息がつまるし、気まずいし、出来るものならこの部屋から出て行きたい。 けれど、先程のメイドの反応を見る限り、この邸で歩き回るのは、かえって迷惑をかけてしまう事になるだろう。 今自分は、正体不明の脅威として、ここの人間に認知されているのだから。 ゆえに、働きたいという要望を抱きつつも、それをどうやって実現させるのかを考えあぐねていたのである。 「…私だって、出来るものならそうしたい……っていうか、あなたね、その呼び方本当にやめてってば」 今の状態を、ルークと言い争ったって詮無き事だ。それよりも、定着しつつある屈辱的な名前の方が問題である。 「へっ、お前にぴったりじゃんか!…それよりも、お前こそ主人に対して、その口の訊き方はねーんじゃねぇの?」 ブスだし怪力だし、と言ったルークの昨日のセリフが頭の中に蘇り、コメカミが引き攣った。 彼が言った事は間違っていない。ええ、間違っていないとも。今ふんぞり返って宣った尊大な言葉も間違ってはいないが。 「………ど、どうしろと?」 はっきり言って、家政婦だとかメイドだとか、「主人」という立場の人間がいる環境なんて、未体験だ。 上司に対する態度なら、解るところもあるが、それと似たようなものだろうか。 問われたルークも、一瞬考える風な素振りを見せる。 「まずその"あなた"っての、やめろよな。イラつく。んで……あー…そう、敬語だろ当然!俺がご主人サマなんだからな」 「…………えーと……」 主人と下僕の、上と下という関係はしっかり理解しているようだが、その上下関係というものが、 信頼という名の下に成り立ってこそ良好なものになる、というのには気付いていない様子である。 一方的に権力によって相手を思い通りにする、という方向性を押し付けてきたか。 溜息をついた。 「じゃあ……ゴシュジンサマ、デ、ヨロシイデスカ」 「…何で棒読みなんだよ」 ワザとではなかったのだが。自分でもあまりにしっくり来なくて、口が上手く回らなかったのを、ルークが顔を顰めて返してくる。 「もっと真面目に言えっつの」 ええいもう、どうせえっちゅうんじゃい。真面目不真面目以前の問題だ。 「あの。」 床に座ったまま首だけルークの方に向けて話していたのを、今度は体全部を動かして彼に向き直り、一度息を落ち着かせる。 「あなたが私の名前を呼ばないのに、どうして私があなたの事をちゃんと呼ばなきゃならないの?」 む、と黙ったルークを見ると、どうやら正しい事を言われている、という意識はあるようだ。 到底納得していないのは、目に見えてるが。名乗っているのに人の事をちゃんと呼ばないで、まして本人の嫌がっているあだ名で 呼んでくるような相手に、こちらもちゃんとしてやる義理はどこにもないはず。 更に、主人といったって合意の上ではないし、本来その下僕という立場に、自分は立たなくてもいい人間だったのである。 それにしても、自分も異性に向って意見できるようになるとは。成長したというか、慣れって恐いというか。 「それに、違う世界の家柄や階級なんて関係ないと思うし。何で私が、用も無いのに呼び出してきた相手に…」 「う る さ い 。」 落ち着いた、強い語気が飛んできて、思わず言葉を切った。 ルークを見ると、ベッドの上で腕を組み、胡坐をかき、憮然としてこちらを見下している。 そう。見下ろしているのではなく、見下している彼の眉間には、不機嫌であると体言する、思いっきりな皺。 そして背中に走る、そくり、という何かの前兆。 「呼ばねぇってのか?」 「え、えーと…そのー…」 ジワリジワリと、這い上がってくる痛み。怒気をはらみつつも、笑顔を浮かべるルーク。 あ、そういや笑った顔初めて見たよ。やっぱ格好いいなー、と、自分の中で話を逸らせつつ明後日の方向へ目を泳がせる。 「…………………………す………すみませんご主人様。地味ゴリラと呼んでください…」 「よーし」 あんな痛い思いをするくらいなら、自分の安っぽいプライドなんて。 心で大量の悔し涙を流しつつ、ぺたし、と両手をついて頭を下げた。それを前にして満足げに主人も頷いた。 「……ぶっ」 突如として部屋に響いた第三者の笑い声に、二人して吃驚して、その元へと視線を向ける。 見れば、いつの間にかソファにゆったりと足を組んで座っていたガイが、口を抑えて笑っていた。 「ガイ!」「ガイさん!」 ルークが驚きに目を丸くした横で、もまた同じく目を丸くする。 その様子すらもガイのツボに入ったようで、堪えられないとばかりに抑えていた手を放して、笑いを解放した。 「…くくッ……なァんだ、二人とも思ったより仲良いんだなぁ」 「はぁ?! ……どこをどう見たらそうなるんだよ!何で俺がこんな奴と」 いかにも心外だ、といった様子のルークが悪態をつくのをよそに、はまだ驚きから抜け出せないでいた。 だって、気配も何もなかったし、いつ入ってきたのかすら分からなかったのに。 誰もいなかった所に、突如として登場したかのようなガイは、只者じゃないような気がする。 「気付かなかった……いつから、そこに?」 月並みだが、そんな疑問が半分無意識に口から出る。 それに対して、ガイは大した事を考える風でもなく顎に手を当てて、うーん? と唸る。 「普通に扉から入ってきたんだがなぁ。……えーと、ルークが"落ち着かねぇっ!!"ってキレたあたりからかな」 ほぼ一連の最初からじゃないか。 「……そんな前から」「声掛けろよ!」 二人の同時のツッコミに、ガイは苦笑を浮かべたのだった。 息の詰まる、空気以外の何かで圧迫されていたような部屋の中も、ガイが加わった事で随分と和やかになった。 暖かい日差しが射し込み、穏やかな風が部屋に舞い込む部屋の中、先程は静かだったそこに談笑が響く。 ルークとガイが話している声をBGMのように耳に流し込みながら、は膝を抱える。 こうしてずっと体育座りをしているだけなのだが、ルークの意識がガイに向いているので助かる。 としても、ガイの爽やかな笑顔にダメージを喰らう事がないので、楽といえば楽なのだが。 部屋から出る事が出来ず、じっとしているだけ。これでは牢屋に閉じ込められている状態と何ら変わらない。 気を遣わなければいけない相手がいるという点では、牢屋の方がまだマシだと言えなくも無い状態である。 こっそりと、溜息をつく。 ちら、と、二つあるベッドのそれぞれに腰掛けて、馬鹿話に花を咲かせているルークとガイを見る。 自分と話す時には、いつも不機嫌極まりない様子で、言ってる事も無茶苦茶なルークなのに、 ガイと会話を弾ませる彼は饒舌で、楽しそうに笑っている。ガイも気を遣っている様子もなく、自然に笑っていて。 ……なんというか、物凄く眩しい光景である。 まるで、スクリーンを通して見るような耽美なシーンが自分には受け入れられず、慌てて目を逸らした。 「……………」 何だか、少し苛ついた。 ルークにしてみれば、ガイは記憶を失くす前も、失くしてからもずっと友人で、数少ない対等に接してくれている人物である。 楽しそうに話すのは、当然じゃないか。 けれども、ルークだって、こんなに友好的に人と接する事ができるのだから、もう少し自分への扱いをどうにかしてくれたって いいじゃないか、と思う。そんなどうにもならない事を考えていると、知らず、再び溜息がもれる。 こんな時、やはり自分の居場所が、ここにはないのだな、と思う。 「帰りたい」という言葉がふと浮かぶが、帰ったところで自分には待っていてくれる人も、会いたいと思う人も、一人もいない。 (…私って本当に……何なんだろ…) ボンヤリと、哲学的とも言える言葉が頭に浮かぶが、それを真剣に考える気も、答えが出る可能性もなく。 「?」 そういえば、ここへ来て初めて、他人から呼ばれるようになった自分の下の名前を聞いて、驚きには顔を上げた。 「え……あ、はい?」 先程逸らした方向へと視線を戻すと、体はルークの方に向けたまま、首だけがこちらを振り返っているガイと目が合った。 (…うげ) しかし、ガイの向こうに、彼の意識が自分から外れてに向った事に不満一杯のルークが、 忌々しそうにこちらを睨んでいるのが見えて首を竦める。 「どうした?随分浮かない顔、してるな」 ルークの様子に全く気付かないガイは、心配そうにこちらを気遣ってくれる。 「あ、い、いや、何でもないですよ!気にせずほら、えっと…ご、ご主人様と話してて下さい!」 ガイの言葉は有難いが、今はルークの機嫌の降下具合の方が恐ろしい。 下手をしたら誓約の痛みが発動しかねないし、自分としても二人の会話を中断させてしまうなんて、おこがましくて堪らない。 しかし。 「そうか?……けど、さっきから何度も溜息をついてるじゃないか。どこか具合でも悪いか?」 「ガイ!いいって言ってんだから、こんな奴ほっとけよ!」 尚もを気にかけるガイに対して、いい加減イライラとしたルークが声を上げた。 ルークに言われるなんてムッとするが、確かに自分に彼の相手は出来ないのだから、ガイにお任せするのが一番だと考え、 「そうして下さい」と、頷く。の様子はさておき、とガイはルークの方へ一度向き直ると、溜息をついた。 「そういう訳にもいかないだろ、ルーク。ずっとここでこのまま、大人しくしてろ、なんて無茶な話だし」 ガイの、ルークへ向って放たれた言葉にはゲンナリした。一日中、このまま体育座り? 考えただけでも気が狂いそうである。昨日の夜と、今日の朝と、しめて5時間近くはこの状態であったが、それだけでも苦行だった。 これがそのまま一日、下手すればこの先ずっと続くだなんて、軽く(人格崩壊という名の)悟りをひらけそうである。 そうなるとやっぱり、例え嫌われていようが、外に出て何かをしたい、体を動かしたいという欲求にかられてきた。 「なあ、。いきなりの違う世界で混乱してるとは思うが、何か必要なものとか、やりたい事なんかはないのか?」 ルークを諭し、もう一度こちらに顔を向けたガイが、やはり爽やかな笑顔を湛えて訊ねてくる。 「いや、私は……ご迷惑になるといけないし」 「先に迷惑かけたのはこっちだろう?せめて我儘の一つでも言ってくれると有難いんだけどな」 美味しい食事をする事が出来、豪華な部屋での暮らしを許されただけでも自分としては望む事などないのだが。 欲を言えば、思いっきり自分を邪険にしてくるルークから遠ざけて頂けるともっと有難いが。 「ん?」と首をかしげて根気よく答えを待つガイ。そして彼の肩ごしに見えるルークの、苛立ちを募らせた、言外に 「早く言えよなこの地味ゴリラ」という言葉を含んだ痛い視線。 観念して、は口を開いた。いきなりしたいことは何だと言われても困るのだけども。 「…じゃあ、何かする事があれば……仕事が、欲しいんですけど」 恐る恐る、が口から出した言葉に、予想がつかなかったのか、ガイが目を丸くした。 「え?しごと?」 本当に、この言葉でいいのか?と確認するガイに、は黙って頷く。 「仕事……って。別に、気を遣う必要はないんだぞ?今回の事は本当に事故で――――」 「あの、いや、そうじゃなくて」 言葉の受け渡しが上手くいかなかったらしいガイの言葉を途中で遮り、否定する。本当に要求なのだから。 「私、今まで仕事するしかなかったから。急に何もしなくていいって言われても……どうにも落ち着かなくて。 だから、何でもいいのでする事を貰えませんか?」 成る程な、とガイは頷くと、顎に手をあてて、ううん、と唸る。 「ワケ解んねー奴だな。働かなくていいって言われてんだから、じっとしてりゃいーんじゃねぇの」 呆れたように言うルークに恨めしい視線を寄越すが、彼はフンと鼻をならすとそっぽを向いた。 何もする事がない苦しさと、閉じ込められている歯がゆさは、ルークにだって、いや、ルークだからこそ解るはずだろうに。 「仕事、な。……まあ、これだけ広い邸だから、する事の一つや二つくらいはあるだろうけど…」 ガイは顎にあてた手はそのまま、上に彷徨わせていた視線をに戻し、その頭のてっぺんから足の先までを2、3回見直す。 じっくりと見られている事に、は何事かと身を硬くし、やっぱり赤くなってしまう顔を見られないように背けた。 (な、ななな…何で見るかな…) 品定めをするかのような視線で舐め回した後、ガイは一度、息をつく。 「問題は、その格好だな。仕事をするにしたって、その服は――――………何と言うか、斬新的かつ退廃的だ」 ぐさっ、と、音がしたような気がする。 男の人に、服の事を指摘され、ガラスの心が傷付かない乙女(?)はいない。 「立場的にもは特殊だろうから、そのままの格好じゃ余計に皆から浮いちまうだろ。 ここの服を着れば、少しは格好がつくんじゃないかな」 ガイはダメージを受けているに気付かないまま、ベッドから立ち上がると扉へと向う。 「どこ行くんだよ」 折角来てくれたのに、とルークが見る先で、ガイは戻ってくるから大丈夫だ、と言っているのが解る笑みを浮かべる。 「余ってる服がないか聞いてくるよ。仕事にもよるけど…はここに来る前は何をしていたんだ?」 「あ、清掃業…ええと、掃除です。…すみません」 いいって、と頷きながらガイは言うと、加えて待っててくれるよう言い残し、扉の外へと姿を消した。 いいのか、ろくにあたりを確認せずに出て行ったが。まあ気配も無く部屋に入り込めるだけの手腕があるのだし、平気だろうが。 息を吐くのが、聞こえた。 顔を上げると、ベッドの上で面白くなさそうな様子のルークが、肘をついて寝転がったところだった。 悪い事をしてしまったな、と思う。 折角、心を許せる数少ない相手が部屋を訪ねてきてくれて、楽しくお喋りをしていた所だというのに、邪魔をしてしまった。 も、はぁ、と、息を吐く。 (……やっぱり、変かな……と、いう以前の問題よね…) 改めて自分の今の服装を見てみると。 昨日から着っぱなしの、くたくたになって、もはやジーンズと呼んでもいいのかどうなのか、なズボン。 同じくくたくた、更によれよれの、洗濯を重ねて色の剥げた古い上着。 いつもは一応ちゃんと着替えるシャツは、あの時急いでいたために、パジャマとして使っている物のままである。 使い古したスニーカーの中には、大穴が開いたままの靴下。 考えてみれば、よりにもよって、人生の中でも最悪の格好をしている。 なんて酷い。異世界だからという事で贔屓目に見ても、誤魔化しきれない貧乏臭さ。 ガイにはそれがバレてしまったのだろうか。情けないやら恥ずかしいやら。 あああ…と嘆きながら、一応女としての自覚に頭を抱える。 「なぁ」 という、自分が掛けられるにしては珍しい声に、顔をベッドの方へと向けると。 ベッドに肘をたて、頬杖をついたまま、面倒くさそうにこちらを見ているルークがいた。 話相手がいなくなってしまったから、でいいや、という具合だろう。 「お前、本当に変な格好してるよなぁ」 ぐさっ、と、またもガラスの心が音を立てる。 わざとか。わざとなのか、こいつは。何でこう、タイムリーに頭を悩ませている事を。 だいたい、こっちからしてみれば、ここの人間の方が変な格好をしているように見える。 特にルークなんかは、腹は出してるし裾は割れてるしダラリと長いしズボンはダブダブしているし、 で、いかにも反抗期してます、といった、周りを見ても立場的に違和感のある格好である。 それでもやはり、服はいい材質で出来ており、こちらの流行をある程度考慮されたデザインなのだろう。彼に良く似合っている。 実際自分でも酷い格好をしているという自覚を改めてしていたには、反論できなかった。 「……………ほっといて下さいよ」 悲しげに呻くを気に留めず、ただ純粋に湧いたらしい好奇心を、ルークは顔に宿した。 「お前の世界ってさ、みんな、そんな格好してるわけ?」 「ばっ、そ、そんなわけないでしょう!!!」 を通して想像するチキュウだかニホンだかという異世界が、果たしてどれだけ面白い世界に仕上がっているのか知れないが 頭に思い描いているだろうルークは妙にわくわくとした表情をしている。冗談じゃない、とは焦った。 オールドラントにおける地球代表者(非公式)として、今自分は地球のイメージ大幅ダウンという危機に直面している。 今の自分の格好が地球の標準装備だなんて思われたら、死んでも死にきれない程申し訳ない。 「わ、私は貧乏だから、こんな格好してるんです!普通の人はもっとこう……えっと…洋風の…あ、"洋"って概念無いか… …ああーと…ポップでエレガンスなカジュアルの……」 焦って説明しようとするものだから、口から出る言葉がぐちゃぐちゃだ。 とにかく自分なんかと比較されては困るし、イマドキの服装を説明しようとしてみせても、そういった物には 無縁で疎いため、上手くいかない。 そんなを呆れたような目で眺めながら、ふーん、と呟くルークは理解してくれているのか、どうなのか。 「…よく解んねーけど、ま、いいわ。それにその格好、変だけど、お前によく似合ってんじゃん、なあ」 にや、と捻た笑みを浮かべているあたり、褒めてはいないのだろう。 としても、パジャマすら融合している今の最悪な格好が似合うと言われても、全然嬉しくない。 「………それって、嫌味ですよね」 「当たり」 さらりと答えるルークの首を、思いっきり絞めてやりたい衝動にかられるが、出来るはずもなく。 この口の達者なのが、7才の中身だとは思えない。充分20歳の自分(精神年齢的に自信はないが)を振り回してくれている。 「……本当に、意外に仲良いよなぁ」 またしてもいつの間にか、腕に服を抱えたガイが、心底意外そうに目を丸くして扉の傍に立っていた。 「…早ッ!」「っつーか、声掛けろって言ってんだろ!」 またも同時に、同じ反応でツッコミを入れてくるとルークに、ガイは苦笑を浮かべるのだった。 |
ここ書いてる時卒論書いてた影響か、何だか所々論文っぽいような…
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