(最近、とガイの様子がおかしい…) 昼食を食べ、屋敷の中をぶらぶら歩いていたルークは、ふとそんなことを思った。 (今日だってそうだ。朝からあいつらのこと、一回も見てねェ) まるで、自分が避けられているように感じる。 確かに朝は決して早いとは言えないが、それにしてもここ数日、あの2人には全くといっていいほど会っていない。 一緒の部屋に居るはずのまでもが、朝ルークが起きると居なくなっていて、夜寝るときまで帰ってこない。 別に、あんな奴居ようが居まいが関係ない。 そう思っても… 「何でこんなに気になるんだよ…」 どうもしっくりしない。 ガイがどこに居るのか気になるだけ―――――別にあいつは関係ねえ。 そう自分に言い聞かせて、ルークは2人を探す事にした。 (…中庭に行ってみるか…) 確か、中庭には、あいつともガイとも仲がいい、ペールが居たはずだ。 もし、2人のどちらも居なくても、きっと何か情報があるはず。 ルークは、中庭へと歩を進めた。 昼過ぎの中庭には、1人座って土の様子を見ている老人―――ペールが居た。 「よお、ペール」 そう自分が話しかけると、ペールはいつものように、笑顔で言葉を返してくれた。 「これはルーク様。どうなされましたかな?」 「ガイと…が居ねーんだ。ペール、どこ行ったか知らねーか?」 そうルークが聞くと、ペールは少し笑いながら答える。 「あの2人なら、私とガイの部屋に居ると思いますよ。」 「は?」 ガイはともかく、なぜまで部屋に。 ペールに礼をいい、急いで部屋に向かおうとするが、ペールに止められる。 「ルーク様。この花をご存知ですかな?」 そう言ってペールが指差した花は、赤と白のコントラストが美しい花だった。 「……知らねーけど、きれいだな…」 ルークの答えに、ペールは満足そうに頷く。 「この花は、最近が頑張って育てていた花なのですよ」 つい≪≫と言う単語に反応してしまうが、ペールに気づかれないように、必死で興味がないように繕う。 「…俺には関係ねー。……もう行くからな」 まるで捨て台詞のような言葉を残して、真っ直ぐガイとペールの部屋へと走って行ったルークを、 ペールは微笑ましく見ていた。 ガイとペールの部屋に着くと、中から声が聞こえた。 「ガイさん。これ、ここでいいですか?」 中から聞こえるの声に、つい反応してしまう。 久しぶりに聞いたな。 一体、2人で何をしているのか。 聞き耳を立てるが、まったく分からない。 「ああ、いいよ。……それにしても、の作ったやつは本当にうまいな…」 「一時期、毎日作っていましたからね。ガイさんも、初めてにしては随分お上手です」 なんとなく、自分だけが仲間はずれにされたような気がして、寂しいような悔しいような微妙な気分になる。 時折、笑い声を交えながら聞こえる2人の声が、耳につく。 (……馬鹿馬鹿しい。部屋に戻るか…) 部屋に着いても、この部屋のもう1人の住人は今は居ない。 翌日 「…―――ク…―――く、ま…ルーク、ま…ルーク様!」 どうやら、今朝も自分は遅く起きてしまったようだ。 今朝もは、居ない。 メイドに起こされたからか、はたまたが居ないか、どちらかは分からないがルークは不機嫌になる。 ふと時計を見ると、いつもより一時間早い。 「んだよ。まだいつもより早いじゃねえか」 起こしてくれたことに礼も言わず、ただ文句を言うルークだが、もはやメイドもそんなルークには慣れたのか、 華麗にその言葉を無視する。 「ルーク様。お早う御座います。本日はルーク様の、○歳のお誕生日ですわ。そのため儀式がありますので、 早めに用意するようにと、ファブレ公爵様より仰せつかっております」 メイドの言葉を聞き、ようやく今日が自分の誕生日だったと自覚する。 だが、だからと言って何もいい事はない。 ただ、形式だけの儀式をし、形式だけの「おめでとう」が言われ、年が1つ増えるだけの日。 むしろ儀式をする分、普段より面倒くさい。 しかし父上の言葉に逆らうわけにもいかず、ルークは仕方なく着替え、広間へと向かった。 儀式が終わり、自室へと戻る。 やはりは居なかったが、その代わり、机の上に置手紙があった。 「ルークへ。今すぐガイとペールさんの部屋に来て。」 たどたどしく、自分より汚い字で書かれたそのメモは、異世界から来たというが書いたもので間違いないだろう。 本来なら自分の召喚獣であるはずのものに、命令されている気がしないでもないが、まあいい。 来いと言っているのだから、行ってやろうじゃないか。 ルークは、ガイとペールの部屋へと向かった。 部屋に着いたルークは、それが当然のことであるかのように、ノックもせず入る。 「入るぞー」 ドアを開け、足を部屋に入れた瞬間、あたりに音が響き渡った。 パンパンパンパーン! 突然のことに目を丸くすルークとは逆に、目の前にいる2人は笑みを浮かべていた。 「ルーク!誕生日おめでとう」 ガイに言われ、昨日も含めここ最近とガイが何をしていたのかを察する。 それと同時に、昨日の会話の意味も理解する。 昨日のあの会話は、この部屋に飾られた作り物の花のことでの会話なのだろう。 所々に、ティッシュで作られた花が飾られている。 自分でさえ忘れていた誕生日を、覚えていてくれたことが嬉しくて、「へへっ」とつい笑ってしまう。 そんなルークを見て嬉しかったのか、は普段見せないような満面の笑みを浮かべ、ルークに近づく。 と言っても、彼女の特性からか一定の距離はどうしても開くが。 「プレゼントも用意したんだよ。ハイ」 差し出されたものは昨日ペールの元で見た、あの花。 『この花は、最近が頑張って育てていた花なのですよ。』 ペールの言葉を、思い出す。 「…気に入らなかった……?」 なかなか受け取らないルークの様子を見て不安気にする。 「べ、別にそんなことねえよ。…さんきゅ」 ルークの答えを聞いて、は安心する。 ペールからルークがよく中庭に、花を見に来ると聞いて育て始めたのだから、受け取ってもらえなければ、 自分の育てたものは嫌。そう言われている気がするのだ。 まさか、が自分に何かをくれるとは思わなかった。 これが正直な感想だった。 だからこそ、誕生日に何も期待していなかった。 今この時間ぐらいは、2人で居たい。 なんて思うが、そんなことはやはり出来なくて、邪魔されてしまう。 「2人とも、イチャイチャするのはそれくらいにしてくれよ」 計算された嫉妬なのか、それともただの冷やかしなのか。 ガイのその言葉により、近くに居たが、顔を真っ赤にし、何やらぶつぶつ言いながら遠のいて行く。 名残惜しい気もしたが、やはり自分の性格上そんなことは言えなくて、 「別に。イチャイチャ何てしてねーよ」 こんな言葉しか出てこない。 「そうか。それじゃあ、俺からはこれだ」 ガイが出したものは、袋いっぱいにつまったディスティ二―饅頭。 その量が、ガイがどれだけ苦労したのかを物語っている。 「…サンキューな」 そういって受け取ると、笑い返してくれた。 誕生日なんて、あってもなくても一緒だと思っていた。 ただ、面倒くさいだけの、うっとおしい日だと。 でも、今日の誕生日は、この3人で過ごす誕生日は、悪くない。 部屋の隅に置かれた、アマリリスの花が、風に揺れた。 オマケ 「そういえば、去年までガイこんなことしなかったよな?」 「ああ、だって言い出したのはだからな」 「……が?(まさか俺の事・・)」 「うん。折角の誕生日なのに、何もしないのは悲しいかな、って思って。ガイさんのときもしようね」 「(何だ、違ったのか…)」 「残念だったな、ルーク」 「(何で心の中・・・!?)」 「?」 |