例える事も、例えを想う事も、例えを実行する事も、本人の自由である。 けれどきっと、定まったものなど無くて。 --仮想定理-- 突然ですが、あなたに意中の相手、或いは気になる相手はいますか? 「……何だよ、これ」 差し出された紙切れを、眉を潜めて睨みつけるように見やるルーク。 「拾ったんだよ。メイドの誰かが落としたのかもな」 渡した張本人のガイはのんびりと言い放ってから、突き返された紙切れをもう一度眺めた。 無骨な男っぽいモノでなく、綺麗な女性らしさが溢れてくる文字で書かれているそれらは、お題と称して 五つに分かれていた。 「ふんふん、この中でお前に出来そうなのは……」 「俺がやんのかよ!?」 噛み付くような吠え方をするルークに、ガイは紙から視線を上げた。 「の反応を見るのも面白そうじゃないか」 それでいいのかフェミニスト。 「つーか何であいつにやる事になってんだよ!!」 彼が素直じゃないのはすでにわかっている事だ。 甘酸っぱすぎて見てられない主人の行動に呆れ(寧ろ嫌気)を(最近特に)感じているので、 それはもうニッッッコリと微笑んでみせた。 「……気付かれてないとでも思ってんのか?」 どこか寒気を感じる笑顔を浮かべられて、ルークは思わず息を止めた。 まあ、五秒ほど経って再び髪に負けず劣らず真っ赤な顔をして喚く主人に対し、ガイは微苦笑を 禁じえなかったのだけれども。 が敬愛すべきペールさんと草木についての談笑を終えてから部屋に戻ってきてみれば、 何かを企んだかのようなガイの顔とぶち当たってしまった。 その胡散臭い笑顔を見て、脳内に軽い電撃っぽいモノが走った。 電化製品の店で流れていたCMによくあった“ひらめき”という奴だ。 「ごめんペールさんの所に忘れ物が……」 「無いだろ?」 咄嗟に踵を返したものの、肩を掴まれてさらに図星を指された 女性恐怖症のくせに触れるよ、とかはもう言わない。諦めの範疇だ。 (逃げられない……!) ぎ、ぎ……という感じな音が聞こえてきそうなくらいぎこちない動きでは振り返り、 何故部屋の主であるルークでなくガイが迎え入れたのかに疑問を感じた。 違った。 部屋の奥で蹲って念仏を唱えるように陰鬱な雰囲気をかもし出しつつ、何かを呟いていた。 ガイが邪魔で見えなかったようだ。 「ガイ、さん……一体どうしたんですか?」 普段なら絶対に(天地がひっくり返っても無いほど)ありえない主人の様子に、は訳もわからず冷や汗が流れた。 嫌な予感だけがして、胸がこう……つっかえてる? 気がする。 「何でもないさ。そうだ。これから暇だよな?」 そもそも召喚獣である自分に暇じゃない時間があるというのだろうか? 「何かあるんですか?」 聞けば、ガイはニッコリ笑って、 「いや、用事があるのはルークの方なんだ」 縮こまっているルークを指差した。 名指しされた彼はというと、こちらの会話が耳に入ってないらしく膝を抱えたままだった。 「……用事があるっていう様子じゃないんですけど」 「呼びかけてみてくれ。すぐに気付くだろうから」 じゃっ、とウインク一つ残して去って行ったガイを見送って、はため息を零した。 「逃げられた……」 原因はおそらく去った彼なのだろうに、押し付けられた感じが否めない。 こんな状態のルークを見るのは初めてなのに、どう慰めろというのか。 (慰めろなんて言われてないけどね……) もう一度ため息を漏らしてから、ルークに歩み寄った。 「……ルーク?」 「……なんで俺が……出来るわけねー……」 「? ……ルーク、どうしたの?」 尋常じゃない様子に、思わずというか咄嗟に肩に触れると、それはもうガイが見たら笑い出すほど面白いくらいに跳び上がり、 ずさささっと後ずさって壁に後頭部をぶつけ、それさえも気付いていないのか気にしていないのか、 「ななななななななんでここにお前がいんだよ!!!」 とか言い出す始末。 ここが自分の居住空間でもあるからだ、と言い返そうと口を開いたが、止めた。 ハッキリ言っておかしい。 何か変な物でも食べさせられたのかもしれない。ガイに。 次会ったら問い詰めようと心に決めてから、は目の前の問題に取り掛かるとした。 「一体どうしたの? 風邪引いたとか?」 「ち、ちげーよ!! その、だな……あー……」 風船が萎んでいくみたいに勢いも小さくなっていって、最終的には座り込んでしまった。 本っっっ当におかしい。っていうかありえない。 こんな弱々しいルークは始めて見る。 「本当に? 風邪は引き始めに対処すると治りが早いんだし、それっぽかったらちゃんと言わないと……」 「ちげぇって言ってんだろ!! だから、その……が、ガイはどこだよ!?」 「ガイさんならさっき出て行ったけど……」 「なっ……!!?」 (あれだけやれやれって言ってたくせに逃げた!!) (いやあいつがいたらぜってー出来ないけど……) (つーかやんねーよ! 何でだよ!!) (でもあいつにちょっとは意識してほしいし……) (そうだ! 意識させてやるんだ!!) (俺が言ってやらないと気付かないだろうし……) (冗談ですませりゃいいんじゃねーか!) 上記のような葛藤がルークの脳内で展開されていたのだが、には突然黙り込んでしまったように見えるルーク。何か怖い。 大丈夫かなーと伺っていると、いきなり立ち上がって睨みつけてくるルークに驚いてビクッと震えた。 「な、何?」 思わず構えるに構わず、ルークはいつにない真面目な顔して言った。 「お前は俺のペットなんだからな! 俺から離れようなんて考えんなよ!」 「……は?」 あまりに突拍子過ぎる発言に首を傾げる。 今更何を言うのだこの主人は。 そもそも召喚獣なのだから離れられるわけがない。 それだけ言ってガイ同様逃げるように去って行ったルークの背中を見つめ、ますます首を傾げるであった。 某所、とある時間帯。 で、何て言った? うっせー!! 逃げたくせに!! 俺がいたって邪魔だろ? ………… 良いから言えって。 ……あー……ペットだから離れんなって言った。 ……勘違いされても知らないからな。 はぁ? end (あとがき 柊梓様より) 最初はもっと甘い物を書くはずだったのですが……あれ? 何だろう、これはギャグ? でもそんな、関係を進めようにも進められない長髪ルークが大好きです。 悪戯っぽくて天然で毒を吐くガイも大好きです。 ルークのツンデレのツンの裏側に気付けない夢主も大好きです。 さりげなく出てくるペールおじいさんも大好きです。 メイドが落としたと言われるお題は自作です。 ご自由にお使いください。 気になる相手にそれっぽい事をしてみよう5のお題 ・普段呼ばない呼び方をしてみる ・手作り料理を披露してみる ・当たり障りの無い場所に触れてみる ・記念日じゃないのにプレゼントをあげてみる ・冗談ぽく告白まがいな事を言ってみる 上記を見てわかると思いますが、ルークが実行したのは五番目です。 駄文ですみませんが、これを一周年記念のプレゼントとさせていただきます。 ※お題の著作権は柊梓様に帰属します。 |